ブログのほう

ゆるゆると思ったことを書く

心が叫びたがってるんだ。

幼い頃、何気なく発した言葉によって、家族がバラバラになってしまった少女・成瀬順。
そして突然現れた“玉子の妖精”に、二度と人を傷つけないようお喋りを封印され、言葉を発するとお腹が痛くなるという呪いをかけられる。
それ以来トラウマを抱え、心も閉ざし、唯一のコミュニケーション手段は、携帯メールのみとなってしまった。
高校2年生になった順はある日、担任から「地域ふれあい交流会」の実行委員に任命される。一緒に任命されたのは、全く接点のない3人のクラスメイト。
本音を言わない、やる気のない少年・坂上拓実、甲子園を期待されながらヒジの故障で挫折した元エース・田崎大樹、恋に悩むチアリーダー部の優等生・仁藤菜月。
彼らもそれぞれ心に傷を持っていた。
担任の思惑によって、交流会の出し物はミュージカルに決定するが、クラスの誰も乗り気ではない様子。
しかし拓実だけは、「もしかして歌いたかったりする?」と順の気持ちに気づいていたが、順は言い出せずにいた。
そして、だんまり女にミュージカルなんて出来るはずがないと、揉める仲間たち。自分のせいで揉めてしまう姿を見て順は思わず「わたしは歌うよ!」と声に出していた。
そして、発表会当日、心に閉じ込めた“伝えたかった本当の気持ち”を歌うと決めたはずの順だったが…。 バンダイチャンネル「心が叫びたがってるんだ。」より

監督「長井龍雪」、脚本「岡田麿里」のコンビで送る新作映画。
あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」こと「あの花」スタッフの再結成ですね。
このスタッフの過去の履歴を辿っていけば、「とらドラ」だとか「アイドルマスター XENOGLOSSIA」だとか、語る事は無限にあるのですが
その辺はひとまず置いといて。
本作「心が叫びたがってるんだ。」に関する感想です。

冒頭からまぁ、なんというかハラハラするというか・・・
なんとも言えない衝撃の展開からスタート。

夢見がちな少女の視点から始まる物語ですが
少女の中の空想と現実とがかみ合っていなかった事から悲劇が起きます。
おそらく年齢的にまだ現実の方を理解できていなかった。
少女の何気ない一言が家庭を崩壊に追い込み、そして両親からの一言が彼女の精神を追い込みます。
ただ両親のセリフ、実のところそこまで強い悪意はないんですよね。
父親の言葉はちょっとどうかと思うところもありますが、一つ一つの言葉にはそれほど強い敵意や攻撃性は感じられない。
むしろ必要以上に冷たい口調になっている点も含めて、あえて感情を押し殺している印象があります。
いや、本当に見ていて虐待までいくんじゃないかと冷や冷やしたんですが
多少のトゲトゲしさを感じながらも、あれで両親なりに精一杯大人の対応をしていたんでしょう。

 

年齢的にどうして家庭崩壊に至ってしまったのか、その理由は理解できない。
ただ自分の発した言葉が原因となっている事だけは理解できる。
そこで現実に起きた結果との整合性を取る形で、冒頭の空想の世界を膨らませてしまい
自分の口にチャックをする呪いをかけてしまった。
アニメ的にはファンタジーな演出で薄められてますが、経緯的には完全にPTSDによる緘黙の症状ですよね。
トラウマのせいで言葉を出せなくなってしまった。

その少女「成瀬順」ですが、高校生になった彼女はすっかり無口に育ってまして
ただ、その喋らない姿から大人しい印象に見えるけども
身振り手振りによる感情表現や、表情の変化はかなり豊かですし
メールなど文章でのやり取りに関してはかなり口数が多く饒舌なので
性格というか本質の部分では昔のままなのかなと思います。
逆にあのお喋りだった少女が、周囲と一言も喋れないまま無言で過ごすっていうのが
どれほど辛い生活であったかは想像するだけでげんなりしてきますね。

とにかくこの順が、喋れない分、体全体で感情表現をするキャラなので
それがある種の萌えキャラ仕草になっているというか、小動物的な雰囲気を醸し出しています。
音楽室にて、男性主人公にあたる「坂上拓実」の歌を聞いた時の反応を見てしまうと
なんとも応援したくなってしまいます。

この後、あらすじにもある通りミュージカルを行う方向で話が進んでいきます。
この辺で「歌に乗せて感情を伝える」という方向に進むのがよくある展開ですが
本作品においては「音楽の力」ではなく「言葉の力」の方に主題が置かれています。
つまりミュージカル要素、実はあまり強くないんですね。
物語の軸にはなっているけど、主題ではないのでその点は注意かなと。

相手を傷付ける言葉もあれば、思いやる言葉もあります。
そして相手を傷つけないために言葉を飲み込むこともあれば
言葉にしなかったせいで相手を傷つける事もある。
こういった様々なパターンのコミュニケーションが全編に詰め込まれているので
ここに気付くと結構面白く見れる作品だなと思いました。

喋る事ができない順ですが
それでも伝えたい事はたくさんある。
普通に喋れない分だけ、文字や曲に乗せて言葉を伝える。
どの手段を使っても、それぞれに強弱は存在せず、言葉は等しく相手の心を動かしています。
そして、物語が動く要所では、必ず誰かの言葉が起点になっています。
言葉が誰かの心を動かして、その直後、もしくは時間が経過してから
人間関係に変化が起きる。
衝突する事もあるけど、その後も言葉を伝え続ければ前に進んで行く。
特に物語全体を動かすような大きな変化は、順が「口に出した」言葉から生まれます。
苦しみながらも必死で言葉を紡ぐ様子は、些細な一言にも鬼気迫る印象を与えます。
実際、彼女がそうまでして発したかった一言なので
それだけの感情がこもっているからこそ、人を動かす力があるんでしょうね。
全てが悪い方向に転がっていった冒頭の幼少時代の順のトラウマシーンと比べると
言葉によって全てが前に進んで行く展開は、やや都合がいい部分もありますが
登場人物ほぼ学生ですし、それが青春なので気になりません。
拳の代わりに言葉で語り合ってるんです。

まぁ、文字に関しては最近色々な問題が現実に起きたりしているので
その辺も含めて作られた作品なのかなって気がしました。
誰よりも強い感情を持ちながら、伝える手段が限定されている順から感じるもどかしさは
まさに「心が叫びたがってるんだ。
タイトルの通りだなって感じですね。

ミュージカルの方に話を戻すと
「演奏まではできても作曲までは出来ない」という理由から
既存の曲に歌詞を乗せるという方法を取ります。
これに関しては、学生だからしょうがないなという説得力も感じながら
とはいえ、リアリティだけで採用するとも思えない設定でもある。
少なくとも選曲になんらかの理由があるのかな?なんて深読みが捗ります。
特に重点的に描かれてるのはオズの魔法使いの楽曲「OVER THE RAINBOW
順は冒頭で空想の中で呪いをかけられていますし、これを空想の世界に閉じ込められていると解釈するのなら
この物語は順が空想の世界から現実の世界に戻ってくる話で、実行委員の他の三人はカカシ、ブリキ人形、ライオンなのかな?
まぁ考察できるほどの頭もないのですが、仮にそうだとすると一応誰がどれに相当するのかは想像できますね。
ただ手に入れた物がなんだったかまではよくわからない。
結果を見るとライオンに関してはオズと同じだし、誰のことだかはっきりわかるんだけども。
他にも曲は登場しますし、音楽の素養があれば選曲から色々と気付ける伏線があるのかもしれませんね。

そんなこんな、語りたい事はあらかた語り終わりました。
そしてこの物語のラストに関しては語りたい事が山ほどあるんですが
ほぼほぼネタバレを羅列するだけになってつまらないので、一旦飲み込む!
言いたくなったら書くかもしれぬが。
正直、この話のラストに関しては似たような作品はいくつか思い浮かびます。
ただ思い浮かぶ作品の一つが、この作品の脚本家岡田麿里の初期作品だったという事もあり
「二度もぶった!」と家出したくなりますねすね。
いや、あれも凄く面白かったんだけどさ・・・
あ、ただ余ったキャラクター同士をくっつける展開だけは許さないからな!

 

空の青さを知る人よ - ブログのほう